本研究ではnmレベル及びμmレベルの物理的・化学的不均一が擬水性能に与える影響を明らかにすることを目的とした。意図的に(1)物理的不均一性、(2)化学的不均一性を付与したパターンコーティングを作製し、パターンサイズ、液滴サイズを系統的に変化させることで各項目の濡れ性への影響の検討を行った。 (1)周期性の乏しい表面粗さ形状を有し、表面粗さが異なる2種類の超撥水性コーティングを作成し、それらの表面上で、水滴の蒸発過程での濡れ状態の転移(撥水性固体-液体界面での空気の含有量の変化)を詳細に観察した。各コーティングの表面形状から平均凹凸間隔と平均凹凸高さを見積り、これらを用いて濡れ状態の転移が起こる液滴径を算出したところ、実測値に近い値となることを示した。この結果から、濡れ状態の安定性を評価・比較する上で有効であることが明らかとなった。また、外部環境の変化に伴う濡れ状態の観察において、シランの分子長が濡れ状態の転移に影響を与えることを明らかとした。 (2)撥水性シランを用いて分子レベルの平滑性を有したコーティングを作製し、これに対してフォトリソグラフィー法により化学的不均一部位としての親水性領域を規則的に配置した表面を作製し、これらの上で水滴の転落角と転落速度を測定した。パターンの大きさを相似的に変化させた場合、パターンサイズが大きいほど転落角が大きくなることを確認した。したがって、パターンサイズが大きいほど液滴は転落開始しづらいという傾向が明らかとなった。一方、転落速度はパターンサイズが大きいほど大きくなった。これらの結果から、液滴移動開始時と液滴移動時で表面欠陥は異なる影響を及ぼすことが実験的に明らかとなった。さらに、同様の傾向が物理モデルによる計算と流動シミュレーションからも確認された。
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