研究概要 |
本研究は,日本産潜葉性小蛾類の種の解明と系統分類を行い,潜葉性小蛾類の種多様性・潜葉習性の進化を明らかにする.次年度に引き続き,北海道から沖縄県の日本各地で精力的に調査を行い,九州,南西諸島調査では,クマツヅラ科,トウダイグサ科などの亜熱帯性植物から多くの学名未決定種を認めた.ホソガ科コハモグリガPhyllocnistis属では,日本から2新種2新記録種を記載,記録した.うち,センリョウ科に潜る1新種1新記録種は,それぞれヒトリシズカ,フタリシズカを利用し,幼虫期によって葉の利用部位(葉の裏表の表皮層)を変えるという本属初記録となる幼虫習性をもつことがわかった. オビギンホソガ亜科の各属の学名未決定種の調査に努め,ハイノキ科,ウコギ科などから数種の未記載種を採集し,既知種の蛹形態を比較し,本亜科と分類位置が議論されているコハモグリガ属と比較し,本亜科の系統位置の再検討を行っている. 潜葉性・虫こぶ形成昆虫全般の採集も並行して行い,潜り痕のある葉や枝のデジタル標本化を進めている.潜葉性・虫こぶ形成昆虫は,葉の潜り痕(潜孔)や虫こぶで種同定が可能な種が多いことを利用し,落葉を用いたこれら分類群の種多様性調査を行った.結果,落葉調査で多様性をある程度把握でき,多くの種で潜孔・虫こぶの特徴で種同定ができた.特にクヌギ・コナラでは,潜葉性昆虫のタイプ数も多く,種同定も容易であったので生物多様性調査,環境指標に十分利用できると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目的である潜葉性小蛾類の種解明は,野外調査で十分な材料(標本)が採集でき,幼虫期の生態でも多くの種で解明でき成果があがっている.種記載についても本年は2新種を記載している.また,走査型電子顕微鏡を用いた蛹形態の観察,分子解析の両方が対象分類群の種同定に有用であることが確認できている.これら結果を順次,整理していけば研究目的である潜葉性小蛾類の種多様性・潜葉習性の進化を解明することも可能であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの採集調査で,十分な成果があがっている.学名未決定種については種記載を行い,分類学的再検討を進めていく必要がある.潜葉習性の進化については,これまでに幼虫期が明らかになった種の幼虫習性をタイプ分けし,潜葉習性の違いにどのような傾向,メリットなどがあるのか整理する必要がある.そのためには,葉の利用部位の差異,利用部位の齢数による変化,茎など葉以外の部位を利用する種などと寄生率,成長速度,寄主植物との関係などを精査する必要がある.
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