日独両国では近年、行政改革の影響により、文化施設に対する従来型の財政支援方法が揺らいでいる。本研究は、グローバル化による人間の移動の加速化が、芸術作品の提供者(文化施設・創造者・実演家など)と享受者(観客)との関係を複雑化させ、従来の属地主義的な支援方法が現代の社会情勢と乖離しつつあることを明らかにし、超地域的に責任を分散し、補い合うことにより、芸術文化を持続的に支える制度を構築することを目的にしている。超域的な支援の分散が、むしろ芸術文化振興へのインセンティブを増加させることを示し、文化施設に対する超地域的な共同支援導入の可能性を提示するために、本年度は、フランクフルト市立バレエ団から運営体制が大幅に変わったフォーサイス・カンパニーへの支援制度を詳細に調査した。現在、フォーサイス・カンパニーに対しては4つの州・自治体が共同で支援しているが、本年度は主にフランクフルト市による支援体制を調査した。フランクフルトの公文書館と新聞社を訪れ、フランクフルト市立バレエ団解消に関する一次資料を収集、市の文化局で当時の予算関係の資料を複写すると同時に、カンパニーの運営担当者、市の助成担当者に聞き取りを行った。その結果、支援を行う4つの行政組織の負担割合、公演回数との関係、提供施設の使用条件、契約形態などが明らかになった。本年度はすでに提出している博士論文に関してのドイツでの出版やイタリアでの発表の準備があったために、この調査の成果を論文にすることは出来なかったが、来年度7月の文化経済学会<日本>にて口頭発表を行う予定である。本年度は国際的シンポジウム「Culture allo specchio」にてダブル・ディグリー取得者としての報告を行い、また日本文化政策学会にて、日独のNGOによる異文化交流ワークショップについての研究発表を行った。
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