研究概要 |
1)性同一性障害に関する1本の投稿論文が受理され,また,心理学入門書に執筆した性同一性障害に関するコラムが公刊された。投稿論文は,性同一性障害当事者がどのようなストレスコーピング・スタイルを用いるとジェンダー・アイデンティティが高まるのかを検討したもので,臨床実践に寄与する研究である。また,コラムは心理学初学者のために性同一性障害と同性愛の違いについて解説したものである。 2)新たな研究として分析を二つ実施し,学会発表した。(1)性同一性障害傾向の発達を左右する環境指標を探索した。(2)性同一性障害傾向の発達がどのように遺伝環境交互作用を起こすのかを検討した。(1)に関しては,小学校入学前後の女児1429名,男児1370名の親に対して質問紙調査を行った。性同一性障害は「脳の性分化」が寄与しているといわれるため,昨今は生物学的な要因ばかりが探求されてきたことを踏まえ,さまざまな心理変数・環境変数が性同一性障害の発達に寄与していることを報告した。(2)に関しては,そのような心理変数・環境指標が直接的に性同一性障害の発達に影響するわけではなく,調整変数として媒介されることを明らかにするために,双生児法による行動遺伝学分析から,遺伝の影響を増加させる環境,減少させる環境について発表した。具体的には,中学生・高校生の女子の性同一性障害傾向の遺伝率が,親の養育態度の如何によって異なることを報告した。 3)短期間カナダ・トロント大学附属精神保健研究所に出向き,子どもの性同一性障害・性分化疾患の臨床と研究における権威の一人であるKen Zucker博士のもとで臨床研究実践について概要を学んできた。
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