まず、1.研究課題「現代社会における他者援助」の公的な典型形態である「所得再分配」(一般政府による公的支出)に関する研究として、(1)所得再分配の規定要因について、歴史社会学的研究・計量社会学的研究・理論社会学的研究を行った。その結果、長期的要因としては、伝統的家族制度・キリスト教・王権・再帰的近代化などの歴史的経路が、短期的な要因としては、労働組合・左派政党・投票率・選挙制度・女性労働力などの政治経済的状況が、見出された。研究成果の一部は、2本の雑誌論文と2回の学会発表で公開された(なお関西社会学会第61回大会での発表は学会賞を授与された)。また(2)所得再分配の効果(自殺率・出生率・経済成長に対する効果)について、計量社会学的研究を行った。その結果、自殺率は公的積極的労働市場政策支出・公的高齢者支出・公的住宅支出によって抑制され、出生率は公的家族支出によって促進され、経済成長は公的生活保護支出と公的障害支出によって促進される、との傾向が見出された。研究成果の一部は、1本の雑誌論文と3回の学会発表で公開された。つぎに、2.「現代社会における他者援助」の私的な典型形態である「親密性」(友人関係・コミュニティ)に関する研究として、(1)友人関係の規定要因と効果について、計量社会学的研究を行った。その結果、経済水準が高い諸国ほど「近隣友人が多い人ほど幸福度が高い」という傾向が強くなる、との交互作用が見出され、これは「再帰的近代化に伴う親密性の空間的再埋め込み」として解釈された。この研究成果は、日本社会学会の学会誌に査読論文として掲載された。また(2)新たな住コミュニティであるコレクティブハウジングなどについて、質的社会調査(観察・インタビューなど)を行った。それにより、今後の仮説設定や分析結果解釈のための理論的示唆(たとえば親密性の空間的再埋め込みについて)を得ることができた。
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