研究課題/領域番号 |
10J08896
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋口 幸治 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 光格子 / ストロンチウム / 中性原子 / 量子エンタングル状態 |
研究概要 |
ストロンチウム原子の5s5p3P2-5s4d3D3間の遷移の遷移波長は約2.9μmと、他の同類原子と比べても非常に長い。この長波長遷移を用いた応用として、量子エンタングル状態の生成を目指している。 今年度は、Sr原子を光格子にトラップすることを目指した。ここで、量子エンタングル状態を生成するためには、原子間に十分な相互作用(双極子双極子相互作用)を持たせなければならない。そのため、トラップする原子の間隔は狭いほうが望ましい。また、将来的に光格子時計に応用することも考えて、今回は、魔法波長のひとつである390nmのレーザーを用いて光格子を作成することにした。 まずは390nmレーザーのパワー、安定度の向上を行った。その後、真空チャンバー内で共振器を組み、光格子の作成を目指した。実際に、共振器を組むことができ、実験に十分な(Sr原子をトラップするために十分な深さのポテンシャルをもつ光格子の作成に必要な)パワーを得ることができた。 この共振器に用いるミラーは、真空中では劣化する可能性があったので、実際にミラーを真空中に入れて、ミラーの劣化の有無を調べた。時間が経つにつれて、共振器のフィネスが下がる(ミラーのロスが大きくなる)ことがわかった。実際にミラーを取り出して、顕微鏡で観測したところ、表面の劣化を観測することができた。 そこで、真空内で共振器を組むことをやめ、チャンバー外部で共振器を組むように方針を変えた。そのための共振器の設計、チャンバーの設計を行った。 現在は、2.9μmのレーザーの改善に取り組んでいる。新しくレーザーを作成し、レーザーの高強度化、高安定化を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光格子を作るための共振器に用いていたミラーが真空中で劣化したため、真空チャンバー内で共振器を組む方法から、チャンバー外部で共振器を組むように方針を変えたため、やや遅れていると言える。ただ、劣化の様子を確認できたこと自体は進歩であり、また、新たな方法での作成も進んでいるので問題はないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に用いる2.9μmの中赤外レーザーを新しく作成する。それにより、高強度化、高安定化を目指す。原子間に十分な相互作用(双極子双極子相互作用)を持たせるために十分な強度を持ち、88Srの5s5p3P2-5s4d3D3遷移の線幅(約39kHz)に対して十分線幅の狭いレーザーの作成が目標となる。その後、新しく作成したレーザーを用いて研究を続ける。 当初の予定であった、チャンバー内での共振器の作成は難しくなったため、外部で共振器を組むなどして対応する。
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