本研究は、フランスの映画作家ジャン・ルノワールの創作活動を「演技指導」の観点から再考することで、フランス映画における演技指導の展開について明らかにするとともに、演劇と比べた場合の映画における演技、演技指導の独自性を解明することを目指すものである。平成22年度は研究指導の委託にて、映画俳優の問題の専門家でもある、パリ第三大学映画視聴覚学科准教授アラン・ベルガラの指導を受けることができた。パリ滞在中は、近年フランスにおいて相次いで出版されている「映画の演技」や「演技指導」についての著作を購読するとともに、シネマテーク・フランセーズ付属の映画図書館(BIFI)や国立国会図書館のアーカイブにて、作品の製作に関わる資料(台本、製作資料、スチル写真たど)や映画雑誌などの一次資料の調査を行った。その成果の一部は「扮装と真実-ジャン・ルノワールと1920年代フランス映画の演技論」に纏められている。そこでは、これまで十分に検討されることのなかった無声映画時代のルノワールの演技論を、同時代の映画雑誌で展開されていた演技についての言説のなかに位置づけて考察することを試みた。そこでは「外面的な演技」と「内面的な演技」の対立といった基本的な問題にたいするルノワールの立場の変化を浮かび上がらせることができた。また、ともすれば前衛的な面ばかりが強調されてきた1920年代の映画理論の別の側面を明らかにすることもできたと考えている。1930年代以降のルノワールの演技指導の発展については今後順を追って発表してゆく予定である。
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