研究課題/領域番号 |
10J08905
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内藤 まりこ 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 七夕伝説 / 漢字文化圏 / 東アジア / 文学 / 口承文学 |
研究概要 |
平成23年度は、日本国内外の資料の収集を重点的に行い、望ましい成果を得た。(1)国外の<七夕伝説>の採集:<七夕伝説>.は古代から現代に至るまでの時代において、日本のさまざまな地域で確認されるため、集められた資料は膨大なものとなることが予想される。そこで、資料の全体像を大まかに把握するために、国内の図書館に所蔵される写本および刊本、絵画資料から採集していった。同時に、そうした作業の中で集まった資料の精査を行い、<七夕伝説>が、詩歌や歌謡、物語等の文学、絵画や歌舞伎等の芸能、さらには年中行事等の儀礼、神道等の宗教書のような多岐に亘る種類の資料の中に現れることがわかった。 まず、「<七夕伝説>の物語圏」は、「漢字・儒教文化圏」と地域的に重なるが、「<七夕伝説>の物語圏」を作り上げた人々は、漢字文化を享受するための要件を必ずしも備えていたわけではないことを指摘した。そして、人々は<七夕伝説>.の物語を共有しながらも、各々が属する階級や職能、ジェンダー、信仰を反映させた複層的な物語圏を構築していたことを示し、<七夕伝説>は、現在の解釈に見られるような「ロマンス」として享受されていただけではなく、人々の生活を秩序づけ、彼らの世界観を構成する規範となる重要な物語の一つであった可能性を論じた。そして、このような「<七夕伝説>の物語圏」を検討することで、「漢字文化圏」の設定によって見えなくなる「地域」の複層性を明らかにすることができると結論づけた。(2)国外の<七夕伝説>の採集:本年度は、韓国の<七夕伝説>の資料を採集するために、ソウル市立大学図書館において調査を行った。(滞在期間:平成23年8月1日~平成23年9月20日)そして、事前に予想していた以上の量の一次資料および<七夕伝説>に関する韓国語で書かれた先行研究の論文を採集することができた。とりわけ、李氏朝鮮時代の儒家達が、<七夕伝説>を迷信であると批判する資料が獲得できたことは、「漢字・儒教文化圏」とは異なる文化圏を描き出すことをめざす本研究にとって大変意味のあることであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は昨年度行うことができなかった海外調査を開始した。調査を行った範囲内では、事前に想定していた以上の収穫を得ることができたが、予定していた地域の全てについて調査をすることができなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は海外調査を集中的に行う予定である。研究の拠点を海外の研究機関(ハーバード・イエンチン研究所)に移すことで、調査活動の効率化を図る予定である。当該研究所の附属図書館には、日本の図書館にはない関連資料が豊富にあるため、昨年度の後れを取り戻すことができると考えている。
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