研究概要 |
本研究は、金属クラスター錯体の合成において特異な性質を有する金属錯体を構成要素として組み合わせるという手法で、金属クラスター錯体の構造および分子内の金属原子の配置を制御することが目的である。IrCo_2三核クラスター錯体の合成法(Inorg. Chem. 2006, 45,14.)を応用し、構成要素とする環状Ir三核ジチオレン錯体上にCo原子を精密配置する検討を行ったところ、Ir_3Co_69核クラスター錯体を収率8.9%で得た。同定は各種スペクトル測定およびX線結晶構造解析で行った。X線結晶構造解析の結果、コバルトユニット([Co_2(CO)_5])が一カ所だけ反対側から反応した[syn, syn, anti]の構造をしていた。9核クラスター錯体は期待していたとおり三つのジチオレン環と中心のベンゼン環が高い平面性を有していた。電気化学測定より2段階の混合原子価状態が観測されたことから、還元状態においてコバルトユニット間に強い分子内金属間相互作用があることを見出した。Co_3Fe_3 6核クラスター錯体と分子内金属間相互作用について比較すると、6核クラスター錯体のジチオレン環が平面性を失っているのに対し、9核クラスター錯体は中心骨格が高い平面性を保持しているため分子内金属間相互作用が強くなっている。以上のことから、金属クラスター錯体の合成において特異な性質を有する金属錯体を構成要素として用い、金属クラスター錯体の構造および分子内の金属原子の配置制御に成功した。ここまでの検討から、中心のπ共役をさらに広げれば、さらに長距離の分子内金属間相互作用を発現できると考えた。そこで、トリフェニレンヘキサチオールを新規配位子として合成し、9族金属の二次元集積化により3種類のπ共役環状三核錯体を合成した。結晶構造解析の結果、ボウル状に多少歪んでいるが、高い平面性を有していた。3種類のトリフェニレン錯体の分子内金属間相互作用は、中心骨格がベンゼンヘキサチオールのπ共役環状三核錯体に比べ弱くなっているものの、分子内金属間相互作用があることが確認された。
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