当初の研究計画の内容である自己形成InAs超伝導接合の研究は前年度までにその大部分が達成していたこともあり、本年度はInSbナノ細線の電気伝導に取り組んだ。InSbは従来のGaAsやInAsに比べてスピン軌道相互作用とランデのg因子が十倍程度とIII-V属半導体の中で最も大きく、とても興味深い材料である。特に近年、InSbナノ細線の作製が可能となり、InSbナノ細線超伝導接合においてマヨラナ粒子の検出が報告されており、世界的に注目されている。我々のグループでは昨年度からInSbナノ細線の研究に取り組んでいるが、私はInSbナノ細線の持つ大きなg因子とスピン軌道相互作用に注目し、主に電子スピンの高速制御とクーパ対分離、超伝導電流に対するスピン軌道相互作用の影響という三つの研究に取り組んだ。まず電子スピンの高速制御関しては、微小磁石がつくる磁場の計算を行い、電子スピン状態の高速制御が十分実現可能な微小磁石の設計を考案した。また、試料を作製、測定を行った結果、下部電極によってInSb内のポテンシャルを制御することにより、二重量子ドット特有の電気伝導特性を示し、試料が二重量子ドットとして動作することを確認した。クーパ対分離に関しては、クーパ対を分離させるためのInSbナノ細線に超伝導体と二つの常伝導体が接合されたInSb量子ドットY接合を作製した。さらに実際に測定を行い、その結果からそれぞれの接合において量子ドット特有の現象であるクーロン振動やクーロンダイアモンドが観測され、試料が量子ドットY接合として動作させることに成功した。超伝導電流に対するスピン軌道相互作用の影響に関しては、InSbナノ細線ジョセフソン接合を作製し、測定を行った。その結果超伝導電流を表すゼロバイアスピークを観測し、その磁場角度依存性を測定したところ、スピン軌道相互作用の影響と思われる磁場角度依存性を観測した。
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