研究目的は、分子性導体β"-(BEDT-TTF)(TCNQ)が室温で示す電荷秩序相に対して、光誘起ダイナミクスを詳細に検証することである。その検証のために、従来行われているような、電子状態を反映した近赤外領域における光誘起ダイナミクスを観測するだけでなく、中赤外領域に観測される分子振動モードの吸収スペクトルの光誘起ダイナミクスを観測することにより、局所的な分子構造のダイナミクスについても検証することを目的としている。その観測のために、64素子のマルチチャンネルMCT赤外検出器を導入し、その立ち上げ作業を完了することが平成22年度の目標であった。立ち上げ作業は数カ月ほどで完了し、その後より高いS/N比で測定することを目的として、特別研究員奨励費で購入した光学チョッパーを導入した。これにより、10^<-4>程度の反射率変化を観測できるほどの高感度検出が可能になった。 測定システムの検証のために、既に光誘起相転移現象を発現することが報告されている遷移金属錯体(C_2H_5)_2(CH_3)_2Sb[Pd(dmit)_2]_2の完全電荷分離相における測定を試みた。その結果、光励起直後には二量体構造が揺らいでいる状態にあり、数百psかけて高温相類似の振動スペクトルを示すことが分かった。この結果は、「第4回分子科学討論会(大阪)2010」で報告し、「分子科学会優秀ポスター賞受賞」に結実した。現在この成果を論文にまとめて投稿することを検討中である。他にも、有機金属錯体溶液の時間分解分子振動分光測定を、他研究室と共同で行う事を開始した。 次のステップとなる、β"-(BEDT-TTF)(TCNQ)における時間分解振動分光測定は現在進行中であり、平成23年度の前半までに結果をまとめる予定である。
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