本研究は、水素を代謝に用いる微生物を一次生産者とする初期生態系の生息環境を海底熱水系であると想定し、初期地球の表層岩であるコマチアイトから成る熱水環境での物理化学条件を明らかにすることが目的である。 コマチアイトはより古い地質帯のものほどAl_2O_3含有量が多いことが知られているため、Al_2O_3濃度の異なる2種類の合成コマチアイトを用い、300℃、50MPaの条件下で海水との反応実験を行った。前年度までと同様に、熱水実験装置は閉鎖系のバッチ型実験システムを用いた。岩石試料と溶液試料をサンプルセルに入れ反応させ、付属のサンプリングチューブから溶液試料の採取を行い、溶存ガスや溶存元素の定期的な測定を行った。実験終了後に固体試料を取り出し、分析を行った。その結果、Al10%のガラスでは約2600時間で約2.8mmol/kg、Al5%の枝状組織では約3800時間で約22mmol/kg、Alを含まないかんらん石では約2800時間で約67mmol/kgの水素発生が確認された。 今年度は、不足していたデータを補うための追加実験と、実験生成物の分析を重点的に行った。各実験の生成物のXRD分析、磁気ヒステリシス測定、キュリー温度の分析により、粘土鉱物(スメクタイトと同定)と磁鉄鉱の生成が確認された。水素の発生は鉄の酸化(II価鉄からIII価鉄への変化)にともない起こるため、コマチアイトの熱水変質による水素発生機構は、スメクタイト生成または蛇紋石化にともなう磁鉄鉱生成の2択に絞り込めた。
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