研究概要 |
沈み込み帯における大規模物質循環および熱構造の理解を目的として,エクロジャイトの高精度・高確度温度-圧力経路の導出を行った.研究対象に高温および低温の沈み込み変成帯の例として四国三波川帯・西五良津岩体とグァテマラ・モタグア断層帯を選んだ.まず,西五良津岩体のエクロジャイトの詳細な記載岩石学データの収集および相平衡解析を行い,この岩体が最初に反時計回り(y軸に圧力をとる),続いて時計回り,という複雑な温度-圧力履歴を持つことを明らかにした.このような熱勾配の大きな変化を伴う温度-圧力経路は沈み込み帯熱的過渡期の記録と解釈され,初期の冷却過程(熱勾配が小さくなる)と後期の加熱過程はそれぞれ沈み込み開始直後と海嶺沈み込み直前の状況に対比される.このことから,西五良津岩体が沈み込み境界に滞留し,一つの海洋プレート沈み込みサイクルを記録した稀有な例であると解釈した.一方,モタグア断層帯の低温エクロジャイトの温度-圧力見積もりは,相平衡図解析とラマン分光を利用した手法(炭質物結晶化度温度計,石英包有物の残留圧力による変成圧力予測)によるクロスチェックを行い,互いに一致する条件を得た.この条件は世界中の低温エクロジャイトのピーク圧力条件(上昇への転換点)と酷似し,非常に限定された熱勾配('やや低温'沈み込み)の範囲に集中する.相平衡図解析の結果から'やや低温'沈み込み帯は最も効率よく前弧マントル深度に水を供給し,スラブ直上マントルを蛇紋岩化させることが予測された.蛇紋岩層の厚さが閾値を超えると浮力を駆動力とする反流が生じ,それに巻き込まれてエクロジャイトブロックが上昇するモデルを提唱した.
|