研究概要 |
NF-κBは、免疫・炎症・発生・細胞増殖・アポトーシスやウイルスの増殖などに関与する転写因子である。これらを正しく制御するためにはNF-κBが標的遺伝子を選択的に活性化させる必要があるが、その機構の詳細については未解明な点が多い。近年我々の研究室では、クロマチン構造変換因子であるSWI/SNF複合体とNF-κB Re1B/p52ヘテロダイマーを仲介する新規のcofactorとしてDPF2(REQ)を同定した。DPF2はSWI/SNF複合体やp52と結合する性質があり、SWI/SNF複合体をRelB/p52依存的に標的プロモーターへ誘導することにより、NF-κBの非古典的経路の最下流で機能している。 本研究ではNF-κBの新規のcoactivatorを同定することを目的として、DPF2の属するd4ファミリーの他のメンバーであるDPF1,DPF3a,DPF3bと、これらとC末端の構造が類似するPHF10が、代表的なNF-κBダイマーのcoactivatorとして機能するか否かを評価した。NF-κBとSWI/SNF複合体の両方に依存的に発現するレポーター細胞を構築して解析した結果、全ての候補がRelA/p50を含めた複数のNF-κBダイマーのcoactivatorとなりうる可能性が示唆された。その中でも、DPF3遺伝子からスプライシング様式の違いにより産生されるDPF3aおよびDPF3bはTNF-α刺激によって活性化されたRelA/p50ヘテロダイマーによるレポーター活性を最も強く誘導することから、NF-κBの古典的経路で働く有力なcoactivator候補であると考えた。In vitroの解析からDPF3a,DPF3bはどちらもSWI/SNF複合体の構成サブユニットやRelA、p50と直接結合し、TNF-α刺激後の核抽出液を用いた免疫沈降実験からこれらの相互作用は核内で起こっていることが分かった。HIV-1の野生型LTRを用いたクロマチン免疫沈降により標的遺伝子のプロモーター上での三者の挙動を解析すると、DPF3a/bとSWI/SNF複合体は定常的に動員されているのに対しRelA/p50はTNF-α依存的にLTR上へ動員されていた。このRelA/p50の動員のkineticsは転写亢進のkineticsとよく相関していた。このプロモーターの活性化にはSWI/SNF複合体とRelA/p50が揃う必要があり、両者を結び付けるDPF3a/bはcoactivatorとして重要な機能を担っていることが明らかとなった。
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