現在の地球は金属からなる中心核(コア、主に鉄)、岩石(ケイ酸塩)からなるマントルと地殻、そして海や大気から構成されていることが知られている。地震学的観測から地球内部の密度構造が制約されており、コア・マントルはそれぞれ液体外核と固体内核、下部マントルと上部マントルに分けられている。観測から制約されている内核・外核の密度は同温度圧力条件における金属鉄に比べてそれぞれ2.5-5%、5-10%程度低いことがわかっており、これは地球中心核にこの密度欠損を説明しうる量の軽元素が含まれているからであると考えられる。本研究では水素がコアに含まれる可能性に注目し、鉄水素化物(FeHX)における基本情報である『鉄-水素系状態図』とコア-マントル中での水素の分布に重要な制約を与える『鉄-ケイ酸塩間の水素の分配』をそれぞれ高温高圧下において実験的に調べた。 高温高圧実験、放射光を用いることによって鉄-水素系の相平衡図を明らかにし、水素の固溶が鉄の融点が大きく下がることがわかった。また回収試料をFT-IR分析することで鉄-ウォズレアイト、鉄-リングウッダイト間の水素分配係数がそれぞれ256、47と得られた。いずれの値も明らかに水素がケイ酸塩よりも鉄に分配されることを示している。今回扱ったウォズレアイト、リングウッダイトは最大で3wt.%程度とマントル主要鉱物の中で最も多く水を含むことのできる鉱物にかかわらず水素が鉄に50-250倍分配されたという結果はコアに水素が多く存在する可能性を示す非常に重要な結果であった。 今回の結果から、地球原材料物質に水が含まれていれば地球形成過程において多量の水素が鉄に取り込まれたと考えることができ、その場合鉄の融点を大きく下げるためコアの温度が現在純鉄の融点から見積もられているものよりもかなり低い可能性が考えられる。
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