研究課題/領域番号 |
10J09400
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 誠一 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ポリマー分散型液晶 / 血管内皮細胞 / 配向構造 / せん断流れ / シリコンナノ粒子 / 量子ドット |
研究概要 |
液晶は密度が高くなると自発的に配向構造を形成する。この性質を利用し、液晶と光硬化モノマーの混合物に紫外線を照射すると、光重合の過程で相分離が起こり、高分子中に配向状態の液晶液滴が多数存在した「ポリマー分散型液晶(PDLC)」を作成することが出来る。本年度は、光重合に伴って系がどのように不安定化していくか(相分離温度がどのように変化していくか)について検討し、形成される液滴径との相関を調べた。その結果、相分離開始時までの相分離温度のシフト幅が液滴径に強く影響を与えることが分かり、これを指標とすることで、従来難しいとされていた低液晶分率の領域でも、液滴を応用上必要な数ミクロンのサイズに制御することに成功した。PDLCは光シャッターなど様々な応用が期待されているが、高価な液晶を大量に使うためそのコストが懸念されてきた。今回の成果は、PDLCのコスト削減に対して大きく貢献出来ると考えられる。 また、血管内皮細胞は、せん断流れを与えると伸張・配向した構造を形成する。先述の液晶と同様に、血管内皮細胞の配向現象についても密度が支配的因子なのではないかと考え、伸張と配向それぞれに対する、細胞密度の影響を検討した。その結果、配向形成については密度に閾値が存在し、閾値以下の密度では配向が起こらないのに対し、伸張は閾値以下でも共通して起こることが明らかとなった。従来、伸張と配向は一連の現象として扱われてきたが、本検討により両者は別々のメカニズムで起こっていることが示唆された。さらに現在、配向形成のメカニズムをより詳細に調べるため、細胞内小器官のリアルタイム観察を予定している。このために、長期の観察に耐えうる光安定性と低い毒性を兼ね揃えた新規蛍光マーカーとして、蛍光Siナノ粒子の開発を行っている。本年度の検討により、粒子の表面化学種や凝集径を制御することによって、様々な細胞内小器官を選択的に標識できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリマー分散型液晶、血管内皮細胞の両系において共に、配向構造の形成メカニズムについていくつかの新しい知見が得られた上、細胞の長期観察用の蛍光Siナノ粒子の開発も進んでおり、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、血管内皮細胞の配向構造形成において、細胞の伸張はせん断応力によるメカノレセプターの活性化に誘起されたアクチンフィラメントの重合という生物的なプロセスによって起こるのに対し、配向は伸張に伴うエントロピー的な不安定化という物理的なプロセスによって起こるという仮説の下、検討を進めていく予定である。最終的には、得られた知見に基づき数理モデル化を行い、他の物質系における配向現象を含めた統一的な理解を目指す。
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