研究概要 |
宇宙における鉄マグネシウム組成比の進化は、宇宙初期星形成時期を推定する上で極めて重要な情報である。クェーサーから鉄マグネシウム組成比を得るには、鉄やマグネシウムの輝線を放射しているガスの物理を解明する必要がある。本年度は、約70,000ものクェーサーのスペクトルを保有しているSDSSアーカイブからスペクトルを取得し、解析を行った。鉄輝線およびマグネシウム輝線が放射される波長域をカバーし、かつ信号雑音比が10以上の高品質なデータを選択した結果、最終的に約800天体について、様々な輝線の強度、天体の明るさ、中心にあるブラックホールの質量の測定を行うことができた。特に紫外域から可視域に渡る広い波長範囲に渡る鉄輝線を約800もの多くのサンプルで同時に測定した例は、これまでにほとんど報告されていないユニークな情報である。一方、ガスのモデル計算を行い、鉄輝線の可視域と紫外域での強度比がガスの厚さを測る指標となることを確かめた。SDSSアーカイブのサンプルから得られた測定値とモデル計算の結果を比較することにより、明るい天体ほど厚いガスに包まれているという性質が明らかになった。これは明るい天体ほどガスに照射される光子による輻射圧の影響が大きくなり、薄いガスは吹き飛ばされてしまって残らず、厚いガスのみが輻射圧に打ち勝って重力束縛された状態を保つ、というクェーサーの新たな物理背景を示唆するものである。以上の結果をまとめた論文を査読付き論文誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societvに投稿し、受理された。
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