研究概要 |
本研究は,木質構造物の耐震安全性の向上を第一義的な目的とし,地震時における建物挙動を精度よく評価する方法を検討するものである。木質構造は,永続的な資源供給が可能な木材によって主架構を構成するため,今後の需要拡大とそれに伴う構造形式の多様な変化が予想され,それらの変化にも対応できる評価方法の構築が求められている。また一方で,脆弱な既存木造住宅の耐震安全性の向上は,喫緊の課題であると認識されており,これら木質構造物の構造特性を適切に評価することは,我が国の重要課題と言える。 木質構造の構造特性に関する研究は,これまでにも多く成されてきたが,未だ統一的な見解には至っていない。その理由の一つに,評価が困難な木質構造に特有の強い非線形性が挙げられ,その解明が構造特性の把握にとって重要と考えられる。これらを踏まえ,本研究では,次の二つの側面から構造特性の評価に取り組んだ。 1)木材の変形性状をシミュレーションすることで,履歴特性に現れる各部の非線形性の原因を究明すること 2)架構を構成する部材・接合部の特性から,架構全体の履歴特性を再現すること 1)では,木材の変形シミュレーションが可能な解析手法の検討として,個別要素法に基づく計算方法を提案し,その妥当性の検証作業を進めた。木材の変形性状は,複雑であるばかりか個体差も大きく,未だ検討の余地を残すが,提案モデルは,木材の繊維組織構造に立脚していると言う点で,既往のモデルと根本的に異なり,今後の研究によって木材の様々な変形性状が評価できると期待している。一方2)では,研究代表者が数年に渡って取り組んできた木造住宅用の制振装置を対象に,架構の応力解析モデルを構成部材の特性の積み重ねによって構築したもので,1)より構造物に近い形で行った検討である。本研究の最終的な目標は,両者を結びつけることで,それには多くの検討内容を残すが,これらの基礎は固まりつつある。
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