高活性な二酸化炭素の水素化触媒を開発するため、新規Ir-PNP錯体の合成に取り組み、ピリジルメチル位にベンゾイル基を導入した錯体とピリジン環にスルフィド基を導入した錯体の合成に成功した。これによって、PNP骨格の様々な場所に対し官能基を導入する手法が確立された。 合成した錯体を用いて塩基存在下での二酸化炭素の水素化を試みた。その結果、電子求引基であるカルボニル基を導入した錯体を用いた場合に対応するジヒドリドクロリド錯体よりも活性が向上し、当初の想定通りピリジルメチル位の水素の酸性度が二酸化炭素の水素化活性に大きく影響するという知見が得られた。 また、計算化学的手法を用いてIr-PNP錯体上でのギ酸の生成機構について考察した。計算手法としてB3LYP、基底関数としてLanl2dz(f)/6-31G++^<**>を用いて単離されている中間体と考えられる遷移状態についてDFT計算を行った。また、PCM法を用いて水の溶媒効果を見積もった。その結果、最も安定な中間体はカチオン性ジヒドリド錯体であると推定され、続く脱プロトン化によって得られるジヒドリドアミド錯体を安定化できれば、律速段階である水素の付加がある程度加速される、すなわち、ピリジルメチル位の水素の酸性度の向上が活性の向上に繋がるであろうという知見が得られた。 このように、実験化学と計算化学の両面において、二酸化炭素の水素化活性においてIr-PNP錯体に電子求引基を導入することの有用性が示された。これらの結果は酸性条件での二酸化炭素の水素化を目指す上で非常に重要な知見である。
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