本年は、胚床に関する分子を、体を用いて機能解析する手法を確立させた。マウスの胚着床に必須な分子のひとつ、白血病阻止因子(LIF)の組み換え蛋白質を精製し、ウサギに免疫することで、抗LIF抗体を得た。胚着床前に、抗LIF抗体を腹腔内に連続投与することにより、C57BL/6マウスで、胚着床を完全に阻害することに成功した。投与した抗体が、子宮の間質、及び上皮で作用していることを示し、また、胚着床時にLIFによって上昇する遺伝子の発現が抑制されることを明らかにした。従来、抗体による機能解析は、子宮内に直接投与することで行われており、複数の抗LIF抗体を用いた研究でも、胚着床は抑制されるだけであった。腹腔内投与は、子宮内投与よりはるかに簡便かつ再現性のあるもので、抗LIF抗体での結果から、ほかの胚着床に関連する分子についても、応用が可能なことが示唆された。本研究では、LIFによって制御される、アグリンの胚着床での役割を明らかにすることを目的としており、アグリンに対する抗体を合成ペプチドを用いて作製し、上記と同じ手法で機能解析を行った。抗アグリン抗体の投与では、胚の着床数に有意な変化は認められなかったが、いくつかのマウスでは、着床数の異常を伴って、脱落膜化の亢進や異常が認められた。このことから、アグリンは脱落膜細胞の増殖・分化を制御することにより、子宮管腔の閉塞を含むマウスの胚着床の過程に重要な役割を持つことが示唆された。
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