私はミツバチ働き蜂の齢差分業を制御する分子神経基盤を明らかにするために、脳内において分業依存に発現変動する新規な長鎖非翻訳性RNA、Nb-1の発現様式と機能について解析している。昨年度、私はNb-1発現細胞が蛹期の早い段階ほど脳内のより広範な領域で存在していることを見出した。 蛹期の脳内では、Nb-1は増殖細胞において強く発現することが示唆されていた。これを検証するため、細胞増殖マーカーとNb-1との二重染色を行ったところ、Nb-1発現細胞と増殖細胞は一部で重複していた。また、Nb-1RNAの局在は単一細胞内で変化するが、これらの増殖細胞内では、主に細胞質でのみ観察された。よって、Nb-1RNAは細胞質に局在することで、細胞増殖を制御している可能性がある。 次に、Nb-1の発現誘導がどの発生段階で開始されるかを明らかにするために、幼虫、卵、卵母細胞の各段階における発現を解析したところ、卵と卵母細胞における発現が蛹期の脳内に比べて、強く検出された。また、女王蜂卵巣内ではNb-1は卵母細胞と保育細胞のみで検出された。よって、Nb-1RNAは母性RNAとして卵形成時から発現し、発生を経るに従って発現量が低下していくことが示唆された。 さらに、Nb-1の機能ために必要な系の構築を目指した。二重鎖Nb-1RNAを卵に顕微注入することで、内在性のNb-1RNAの発現量が低下した。また、Nb-1RNAを発現誘導するバキュロウイルスを作製し、昆虫培養細胞におけるNb-1の発現誘導が確認された。よって、Nb-1の機能を解析する上で重要な、遺伝子発現を人為的に抑制、または促進する系を確立できた。 今後は、上記の発現操作系をもちいて、細胞増殖と脳構造形成におけるNb-1の機能を明らかにし、加齢に伴うNb-1の発現量変化が脳の機能や構造、働き蜂の行動に与える影響を検証していく。
|