生体内で形成されるバイオミネラルの形成機構にならい、温和な条件下で有機高分子を用いて、無機結晶の形状および結晶成長制御を行った。これまで、キトサンなどの有機高分子をマトリクスとして用いてc軸がマトリクスに垂直に配向した水酸化コバルト薄膜の作製に成功していた。本年度では、さらなる水酸化コバルトの結晶成長制御を目指し、水酸基を有するポリビニルアルコールを有機高分子マトリクスとして用いることにより、水酸化コバルトのc軸を基板に平行に配向させることに成功した。さらに、キトサンマトリクス上、ポリビニルアルコールマトリクス上で、無機イオン濃度、反応時間、水溶性添加物などの条件を変化させて、結晶成長を行うことによりc軸が配向した薄膜の結晶成長機構を考察した。さらにこうして得られた薄膜を酸化剤に浸漬することにより、コバルト酸化物薄膜を得ることに成功した。得られたコバルト酸化物薄膜は、化学的に処理する前の水酸化コバルト薄膜の形状と配向を維持していた。前駆体となる水酸化コバルトの形状や配向を温和な条件下、有機高分子を用いて制御し、そこからコバルトの価数を変換させる処理を行うことによって、比較的温和な条件下で結晶の形状や配向が制御された、コバルト酸化物薄膜を得ることに成功した。以上の結果は、温和な条件下で遷移金属水酸化物の結晶成長制御を行うことが出来ることを示している。さらには、本年度の研究結果から有機高分子によって、形状や配向を制御された水酸化物を酸化または還元処理を行うことによって、高度に制御された遷移金属酸化物の作成へと展開することが可能であると考えられる。
|