アルツハイマー病(AD)の発症メカニズムとして、脳内に産生されたアミロイドβペプチド(Aβ)が線維化し蓄積する過程が神経細胞死を招くというアミロイド仮説が広く支持されている。また、脳内にはAβと相互作用する分子が多数存在することも知られている。そのため、AD、特に孤発性ADの発症機序を解明する上で、このようなAβと密接に相互作用する分子がAβの存在様式に及ぼす影響を解明することは必須である。さらに、Aβの存在様式のみならず、Aβと相互作用する分子自体の動態もAD発症機構の解明には重要と思われる。申請者はこのような分子の中で、特にその遺伝多型の一つであるε4アレルがAD発症の強力なリスクファクターであるアポリポ蛋白E(apoE)に着目している。apoEは脳内でアストロサイトやミクログリアによって産生され、また加齢や脳内環境によってその発現が変動することも知られていることから、グリア細胞もまたapoEの産生と脳内脂質環境の調節を介しAD発症に重要に関与している可能性を考え、グリア細胞に対するAβの障害性について、特にapoEの動態に着目して検討を行った。はじめにマウス初代培養アストロサイトに対して様々な凝集状態のAβを投与したところ、線維化が進行したprotofibrilやfibrilの投与によって細胞内apoE量が増加し、一方で培養上清中に分泌されたapoE量は減少した。monomerを主に含むインキュベートをしないsoluble Aβの投与では変化は生じなかった。これらの結果は、Aβの凝集状態に応じたアストロサイトの障害が生じている可能性を示唆する。また、凝集Aβによる細胞内apoEの上昇はapoEの生合成の亢進によるものでないことをreal time PCRによって確認し、細胞外apoEの取り込みによって生じることをsucrose投与実験などによって明らかにした。以上の結果は、Aβ、中でも神経細胞に対し障害性を発揮することが知られている線維化が進行したAβが、グリア細胞にも障害性を発揮し、apoEの動態に影響を及ぼすことを示していると考えられる。
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