本研究の中心課題である〈二十四孝〉は、古代中国に生まれた家族間に働く実践倫理「孝」の実践者(孝子)にまつわる物語を24集めた〈孝子説話のダイジェスト版〉である。本研究の目的は、この〈二十四孝〉を基点として、特に前近代の東アジア諸地域において重要な意味を持ち続けた「孝」思想の表象とその機能を、近代まで視野に入れて通時的に明らかにすることにある。 そのために、本年度は、前近代までの日本と中国における〈二十四孝〉のテクストおよび図像資料を網羅的に調査・収集・整理し、本研究の基礎を築くことを中心的課題とした。4月から6月にかけては、東京大学東洋文化研究所において、二十四孝関係の中国明代の漢籍および考古学資料の調査・収集を行った。さらにそれと並行して、東京大学史料編纂所の所蔵する五山文学関連の貴重書を撮影・複写し、五山文学における二十四孝および孝思想に関わるテクストのデータを作成した。6月以降は、このデータをもとに、二つの研究会において、日本中世の五山における二十四孝の消化とその絵画化の問題についての口頭発表を行った(「日本中世の五山における孝思想の受容と展開」民族文化の会、於財団法人黛民族舞踊文化財団事務局黛ホール、2010年6月6日、及び「山水のなかの孝子たち--五山の二十四孝受容とその絵画化をめぐって」、オープンセミナー「東アジア伝統説話の享受と表象」、於東京大学駒場キャンパス、2010年7月2日)。さらに、この成果を「茅屋に棲む孝子たち--五山の二十四孝受容とその絵画化をめぐって--」と題した論文にまとめ、東方学会学会誌『東方学』第123輯に投稿した。本論文は現在査読中であるが、査読を通過すれば、平成23(2011)年1月末に刊行される予定である。
|