平成22年度の成果の一つである単著『死刑執行人の日本史--歴史社会学からの接近』(青弓社)では、死刑制度を判決と執行の要素に分けたうえで、後者を「犯罪ではない殺人」=〈殺人〉であるとし、日本で〈殺人〉を担ってきたのは誰なのか、死刑執行人=「〈殺人〉を担う者」を選ぶ社会的条件とはなにかを、江戸後期から現代にいたるまでの死刑執行人の歴史を記述することで明らかにした。具体的には、刑務官が死刑執行を担うとなっているのは偶然の歴史的産物であること、死刑執行人の苦悩にたいして、殺すのがいやならば辞めればよいといった反論がなされるが、現在の日本では、死刑執行は刑務官の職務ではないため、そう単純ではないこと、死刑執行人の苦悩とは人を殺すことについての真っ当な反応であることなどを明らかにし、死刑をめぐる議論のなかで、この真っ当な反応についての考察がなされていないことを指摘した。この指摘は、〈殺人〉への問いを開き、死刑執行の問題を戦場における兵士や、安楽死に関わる医師の問題へとリンクさせうる点で重要であると考える。 以上とは別に、歴史社会学の研究成果として、2009年10月22日に開催した、歴史家ヘイドン・ホワイト(カリフォルニア大学サンタクルーズ校名誉教授、スタンフォード大学教授)氏を招いた特別公開企画についての報告書の編集に携わったこと、自らが主宰する立命館大学大学院先端総合学術研究科公募研究会「歴史社会学研究会」において、石原俊(明治学院大学准教授)氏を招き、「インターディシプリンな歴史記述--石原俊氏に学ぶ」と題する公開研究会をマネージメントしたことなどが挙げられる。
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