カチオン性脂質/DNA複合体は多彩な高次構造を形成し、その構造は遺伝子導入効率に影響を与える要因の1つと考えられるようになった。これまでTEM観察、X線小角散乱などを用いて複合体の構造解析が行われているが、脂質とDNAの複合化の熱力学やダイナミクスの理解が進んでいないことがわかっている。そこで本年度は、(1)カチオン性脂質/DNA複合体の高次構造とその形成過程を時分割X線散乱法を用いて調べた。 カチオン性脂質/DNA複合体形成の初期過程を観測するために0~15度の低温条件下で測定を行った。時分割X線散乱測定の結果、ジアミン脂質/DNA複合体の形成は、混合後73msという非常に早い時間から複合体のラメラ由来のピークが観察できた。このピークの強度は20~30秒ほどで変化が収束することが判明した。現在、この脂質に中性脂質を添加した際の影響について研究を進めている。又、研究結果は、論文投稿準備中である。 さらに本年度は、ジアミン系脂質の誘導体の1つとしてヒスチジンを頭部に有するカチオン性脂質を合成した。この脂質は、多層チューブを形成することがわかった。Au3^+の添加で脂質中のヒスチジンと錯形成し、多層チューブから単層チューブへと変化することがわかった。このチューブ上の金イオンを還元することで、粒径の揃った直径1.7nmの金コロイドを作成することができる事がわかった。このコロイドは1週間後でも凝集は観察されなかった。直径数nmの金コロイドは容易に凝集してしまうが、この系では金コロイドと脂質分子間の強い相互作用のために凝集を防いだと考えられる。この研究結果は英国化学会の物理化学誌であるPCCPに掲載された。 また今年度は英国Bath大学Tony James教授らと共同でボロン酸付加型の両親媒性分子の開発を行った。この両親媒性化合物は水-ジクロロメタンの液-液抽出での検出限界が約0.2ppmであり従来のフッ素イオンセンサーを凌ぐ性質を持つことが判明した。この結果は米国化学会のJACSに投稿中である。
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