本研究の目的は、20世紀後半以降のパフォーミング・アーツにおけるメディアの利用の様態を包括的に検討し、その歴史的な変遷およびそこから見出される理論的な展望を明らかにすることである。しかし、研究を進めていく中で、こうしたメディアの問題が位置づけられるべき、より大きなパースペクティヴ自体をまず明確化することの重要性が強く意識されるようになった。それは、パフォーマンス研究という研究領域や、パフォーマンスという概念そのものが、我が国ではまだほとんど認知を得ておらず、研究者の数も極めて少ないという現状を認識してのことである。 そこで、最終年度となる本年度も、アメリカ合衆国における芸術実践および知的言説の両面における「パフォーマンス的転回」について検討する作業に集中的に取り組んだ。特に、2012年8月後半からは、ニューヨーク大学に滞在して調査を進める機会を得た。本研究においては、資料の圧倒的大部分がアメリカ合衆国に蓄積されており、また、パフォーマンスの記録映像などは、国内からは入手はもとより参照も不可能な場合が多いため、この機会を十分に活用し、精力的な調査・収集を行っている。日本を離れていることもあり、本年度中にこれを研究成果としてまとめることはできなかったが、2013年8月の帰国以降、順次その成果を発表していく予定である。 三年間の研究期間の総括として、上記のような経緯により、研究計画の重点に変更が起きたこと、すなわち、基礎的な調査としての性格が増し、それによって研究成果をまとめるのに多少の遅れが生じたことを述べておかなければならない。しかしその分、当初の研究目的を越えて、パフォーマンス研究の問題設定や手法を我が国の研究状況にどのように取り入れていくべきかということまで含めて、より生産的な基盤を確保することができたと考えている。これを引き継ぎ、今後も本研究を発展させていきたい。
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