今年度は研究課題の初年度として、ジャンケレヴィッチの思想にがんする基礎的な再検討の作業を進めることに努めた。第一に、若きジャンケレヴィッチが博士主論文『後期シェリング哲学における精神のオデュッセイア』で論じていらい重要な基盤の一端でありつづけたシェリングの思考との関連について考察を行なった。シェリングじしんの著作や関連文献を検討することを通じ、ジャンケレヴィッチによるシェリング読解の特徴や、それと後年のジャンケレヴィッチの思索との連関のありかたをさぐり、来年度以降の研究への足がかりを得ることができた。第二に、ジャンケレヴィッチの思想の特徴である時間性にかんする論考を公刊することができた。上記のシェリング読解とも関連するが、ジャンケレヴィッチにおいて決定的に重要でありつづけた〈過去性〉を念頭に置きながら、各著作で遅れ、倦怠、郷愁といった主題において展開されている議論を、ジャンケレヴィッチ哲学全体の布置を意識しながら一つずつ跡づける作業が一定の成果へと結実したことは、今年度の研究成果であったといえよう。第三に、研究課題名にも挙げた「オデュッセイア的自己性」という観点を、ジャンケレヴィッチの形而上学・倫理(学)的視点から精錬するための準備的考察を進めることができた。具体的には、ジャンケレヴィッチ自身のオデュッセイア読解の再検討、および、物語論的な考察や、とくに文学と哲学の関連についての考察を行なった先行研究のフォローなどを進めた。これらも含めた作業を次年度以降も継続したうえで、本研究課題に即したさらなる研究成果の公表を実現したい。なお、本研究課題に多角的側面を与えるべく、ジャンケレヴィッチと同時代に、かれと同様にソクラテス的道徳実践の考察に注力した日本の哲学者である出隆の思索についても、本格的な検討に着手した。この考察は来年度以降も継続して行なう。
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