研究課題の二年度めとなった本年度は、ひきつづきジャンケレヴィッチの思想にかんする基礎的な再検討の作業を進めるとともに、その実践的展開の方途を見出すべく方法論的な模索にも努めた。まず前者については、これまでの一次文献読解の蓄積を、二次文献やその他の文献との照合を通じて精錬させてゆくことが中心的な作業となった。とりわけ今年度はフィロネンコによる大部かつ包括的な研究書が刊行されたことで、ジャンケレヴィッチ研究が新局面に差しかかっており、本研究としてもこうした状況への対応を迫られることとなった。つぎに後者については、オデュッセイアを一種の範例と目し、またカイロス的時間性を重視しつづけたジャンケレヴィッチに鑑み、近年さかんに論じられてきた物語(り)論との照応関係に着目した考察を行なった。そのさい、たえず還元不可能な具体的事例への視座を保持するという志向をもつジャンケレヴィッチ的思考の特徴も加味しつつ、マルセルやヴァールといった前世代の論者が追究した「具体的なもの」との関連性も意識した(この観点は上述のフィロネンコ書の副題「具体的倫理学の体系」とも符合するものである)。この点について本年度は萌芽的な研究発表を行なっているが、来年度はこれをさらに展開させてゆくこととなる。なお、前年度から継続して、本研究課題に相対的観点を導入する目的から、ジャンケレヴィッチと同時代に、かれと同様ソクラテス的道徳実践の考察に注力した日本の哲学者である出隆の思索についての研究も行なった。とりわけ今年度は、思索の内実と社会実践との関連という、ジャンケレヴィッチ倫理思想を考えるうえでも根本的な問題点をめぐって考察し、論文へと結実することができた。この取り組みは来年度も継続される。
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