研究概要 |
FeSeやFeSe_<1-1>Te_xなどの11型鉄系超伝導体はPb0型(正方晶,空間群P4/nmm)という、超伝導(FeSe)層のみから構成される最も単純な結晶構造をとる。また高い上部臨界磁場H_<c2>を示し、LaFeAs(0,F)などの他の鉄ヒ素化合物と比較して毒性が低いため応用への可能性が期待されている。超伝導材料の重要な応用の一つが超伝導線材の開発である。この11型鉄系超伝導線材の作製にあたり鉄拡散PIT(Powder-in-tube)法を確立した。超伝導線材を作製する際、超伝導体を包む金属管の材料として、熱処理温度において内部の超伝導体と反応しないことが求められる。しかし、我々は意図的に、金属管と超伝導体の良好な結合を得るために、金属管を内部に形成する超伝導体の材料として使用することを考えた。金属管は鉄管を用い、この鉄管の中にSe及びSeTe粉末を詰め熱処理を行うことでFeSeやFeSe1-xTex線材を作製した。まず、11型鉄系超伝導体の中で最もTcの高いFeSe1-xTex線材を作製した。私はこの鉄拡散PIT法を用いて鉄系超伝導線材では世界で初めて多芯線の作製に成功し、その臨界電流密度J_cは226.2A/cm^2を示した。この成果はSupercond.Sci.Technol.,24,105002(2011)に掲載され、成果の一部は本雑誌の10月号の表紙に採用された。しかしながら、熱処理によって得られた反応層の組成を調べるとFeSeとFeTeの2層構造から形成されていることがわかった。FeTeは超伝導を示さないため超伝導を示すFeSeの領域を拡大させるべくSe粉末のみ鉄管に詰め熱処理を行ったところ、期待通りFeSeが合成されJ_cは7芯線において1027A/cm^2まで向上した。この値は11型鉄系超伝導線材の中では現在世界最高の値である。
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