実施内容 本年度前期(4-9月)は研究の初年度として研究の新たな展開に向けたレビューを行った。具体的には在日中華系キリスト教会研究、台湾のキリスト教とポストコロニアリズム、中国のキリスト教の現状の分野である。いずれも学会や研究会での口頭発表へと展開し、他の研究者たちとの意見交換によって、その後の研究に向けた基礎を構築することができた。 後期(9-3月)は韓国の全羅南道光州市において半年間のフィールドワークを実施した。(1)光州事件と関係するカトリック教会、(2)中国発祥で台湾にて成長し植民地期に日本経由で韓国に伝わったプロテスタント教会の2か所を中心に参与観察を行ったほか、光州事件に関係する場所が「巡礼地」となっているのだが、そうした場所を中心に実地調査を実施した。その他、関係者へのインタビュー、大学図書館などを利用した文献調査も行った。 本研究の意義は以下の点である。従来の宗教人類学の研究によればキリスト教が非欧米地域に宣教する際に、近代化と植民地化と一体化して進められたとされている。確かに世界中の広い地域でそのような状況がみられるのだが、非キリスト教国である日本が植民地経営に関与した東アジアにはこの理論をそのまま利用できない。本研究によって、こうした他の地域の状況とは異なる東アジア的キリスト教と植民地主義の関係性を探る第一歩となった。 韓国研究において政治と宗教の問題は注目されているテーマなのであるが、日本植民地期における植民地経営と宗教政策の問題が多い。しかし、コロニアル期とポストコロニアル期では連続している。そこで本研究では戦後発生した光州事件を取り上げ、キリスト教との関係を考察した。このことによりコロニアル・ポストコロニアルを超えた連続性が明らかになった。この点に本研究の重要性がある。
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