研究概要 |
平成22年度の後半にサハ語形態論を接辞法から見直す過程で,サハ語の派生に2つのタイプ(語彙的派生と統語的派生)が存在することを発見した.特に統語的派生は,きわめて生産的であるのみならず,通言語的な原則とされる「語の形態的緊密性」に反する派生も可能であるという特異性を有している点で,興味深いものである.サハ語の統語的派生に関する研究は,屈折と派生の区別や語性をめぐる形態論研究に一石を投じるものである.平成23年度に入り,統語的派生について国際学会を含む4つの場所で口頭発表を行った. 2011年6月に開かれた第142回日本言語学会においては,個人で行った研究発表に加えて,「北東ユーラシア諸言語の所有を表す接辞の意味論と構文論」と題するワークショップを企画し,司会および発表を行った.このワークショップは,「持っている」に相当する動詞を欠く代わりに接辞により所有を表すという点で共通する北東ユーラシア地域の4つの言語について,所有を表す接辞の類似点と相違点を論じたものである.ワークショップの内容はさらに,ハルハ・モンゴル語についての論文1本を加えた形で,『北方言語研究』第2号の特集として掲載された(「導入と総括」および「サハ語」の執筆を担当). 2012年1月には,『サハ語名詞類の研究-接辞法と統語機能を中心に-』と題する博士予備論文を東京大学大学院に提出し,2012年2月に行われた口頭試問(予備審査)に合格した.予備審査にて審査員より出された修正意見を反映させた上で,2012年5月に博士論文として提出する見込みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
博士論文において,特に接辞法および統語機能に着目しながら,サハ語名詞類の形態統語的・語用論的記述をまとめることができた,また,第142回日本言語学会におけるワークショップにおいて,所有を表す接辞の記述を通じて,近隣の諸言語との対照についても一定の成果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
サハ語の名詞および名詞句についての記述的研究を進めて行く過程で,サハ語名詞類の形態統語的振る舞いに形態統語的要因あるいは語用論的要因のどちらがどのように働くのかについては,おおむね明らかにすることができた.本研究課題の今後の推進方策は次の2点である.[1]名詞類の形態法および統語法と適宜対比しながら,動詞についての記述研究を進める.[2]これまでのサハ語文法に関する研究成果に基づき,近隣の接尾辞型言語,特に日本語の研究を進める.
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