研究概要 |
開発される薬剤には,高い薬剤活性を有するにも関わらず,難水溶性であるために開発段階で除外されるものが多く存在する。これらの難水溶性薬剤に再び脚光を当てるため,生体内輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた新規ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の構築を目指す。1.受容体ターゲットの場合は,L-PGDSと難水溶性薬剤の結合親和性と薬効との関係を調べることにより,最も効果的なDDSを可能にする結合親和性を決定する。申請者は,多次元NMR法により得られたL-PGDSの構造情報をもとに,疎水性ポケット内部の電気的な環境を変える21種類の変異体を,遺伝子組み換え技術により作製した。各変異体に対するGABA_A受容体作動薬であるdiazepam(DZP)の結合親和性を,Trp残基の蛍光消光実験を用いて決定した。これらの変異体なDZP複合体をマウス静脈内投与し,DZPのpentobarbital麻酔時間の延長効果を調べた結果,DZPに対する結合親和性が低いほど,薬効が上昇することが判明した。 一方,2.がんターゲットの場合は,腫瘍に対して特異的に結合するペプチド配列をL-PGDSに導入することにより,腫瘍特異的な薬剤輸送を行う。新生血管の内皮細胞に発現する膜貫通蛋白質CD13を認識するペプチド配列,Asn-Gly-Arg(NGR)モチーフを,遺伝子組み換えによりL-PGDSのN,C両末端に導入し,インテリジェント人工蛋白質(iAP)を作製した。等温滴定型熱量測定により,作製したiAPが難水溶性抗がん剤を結合することが判明した。さらに,ヒト大腸がん細胞Colo201を移植したヌードマウス腫瘍モデルにおいて,iAP/抗がん剤複合体の抗腫瘍効果を検討中である。
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