私は、Reverse Targeting DDS(RT-DDS)を用いたアレルギー・免疫疾患の遺伝子治療法の開発を目的として研究を行ってきた。本研究では、RT-DDS技術によるsiRNAのデリバリーのために、モデル抗原として卵白アルブミン(ovalbumin ; OVA)を用い、製剤開発のための基礎検討、さらに、アレルギー疾患への応用に向け、スギ花粉(Cry j1)を用いたRT-DDS技術の確立を目指して行った。siRNAデリバリーベクターは、ポリカチオン脂質であるdicetyl phosphate-tetraethylenepentamine(DCP-TEPA)を基盤としたポリカチオンリポソーム(PCL)を用いることで、リポソームをプラスに帯電させ、マイナス電荷のsiRNAを修飾する方法を選択した。脂質誘導体PEG-maleimideをリンカー分子とし、OVAをリポソーム外膜に修飾することに成功した。また本ベクターはin vitroにおいてOVA抗体と特異的な結合能を示し、選択的siRNA送達キャリアとしての可能性が示された。また、その有用性はOVA感作マウスにおける脾臓の組織学的解析からも示唆された。続いて、siRNAを用いた遺伝子治療法の確立に先立ち、一般的なリポソーム組成であるDPPC/Cho=2:1のリポソームにCry j 1を修飾し、治療方法の確立を目指した。本研究ではこれまでに、スギ花粉からCry j 1を効率良く抽出・精製する方法を確立し、Cry j 1修飾リポソームがCry j 1特異的lgG1抗体と特異的かつ高い結合性を示すことが明らかにしてきた。今年度は、スギ花粉症モデルマウスを用いたin vivo実験を行った。脾臓内における詳細な局在を検討したところ、Cry j 1修飾リポソームは脾臓内に存在するB細胞集団と共局在していたのに対し、未修飾のリポソームはその周囲にのみ存在していることが確認された。さらに興味深いことに、Cry j 1修飾リポソームはB細胞集団のうち、分化成熟の場として知られる胚中心に多く集積することが明らかとなった。以上の結果より、Cry j 1修飾リポソームはCry j 1特異的免疫細胞群への標的性を有することが示唆され、スギ花粉症根治療法確立への可能性が示された。
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