研究課題
本研究ではLOTUSの胎生期脳における生理機能を明らかにする目的でlotus及びngrl遺伝子欠損マウスを作製し、LOT形成に関わる機能解析を行った。1年目の研究で、まずLOTUS、Nogo、NgR1が三者ともLOTに存在していること、次にLOTUSは内在性のNgR1アンタゴニストとしてLOTの神経束形成に寄与することを明らかにした。Nogoは胎生期の末梢神経系の軸索分枝を誘発するという報告がある(Marija M et al. Development 137,2539-2550,2010)。また、LOTは軸索伸長後胎生14日目以降で軸索分枝が起こることが知られている。そこで軸索分枝が進んだ胎生18日目のlotus-KOマウスのLOTをDiIによって可視化して観察したところ、野生型のマウスに比して軸索側枝の増加が観察された。また、ngrl-KOマウスにおいては野生型のマウスより軸索側枝が減少した。更に、lotusとngrlのダブル-KOマウスの軸索側枝はngrl-KOマウスと同程度にまで減少する傾向があった。これらのことからLOTUSによるNgR1の機能制御が軸索側枝形成の調節に関与することが示唆された。LOTUS、Nogo、NgR1はLOTに予め準備され、LOTの軸索束が形成されるまではLOTUSによってNogoの作用は抑制されているが、側枝形成期になるとLOTUSによるNogo作用の抑制が解除されて軸索側枝が形成されるとする仮説を提唱するに至った。2年間の研究で、LOTUSがNgR1の内在性のアンタゴニストとして作用し、LOTの神経束形成と軸索側枝形成における生理機能も明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究目的であるLOT形成におけるLOTUSとNgR1の役割の解析を行い、論文化を果たした。また、当初の予定には無かったが、各遺伝子欠損マウスの軸索側枝の形成における表現型異常を見出し、神経再生阻害因子であるNogoの胎生児脳における生理機能の解明に迫ることができた。遺伝子欠損マウスの行動解析をするまでには至らなかったが、以上の理由からおおむね順調であると判断した。
今後は軸索側枝形成がどういったメカニズムで生じたのかを明らかにするため、発生段階におけるLOTUS,Nogo,NgR1の発現様式をウェスタンブロット等で調査する。それによってLOTUSの発現変動がNogoのシグナルを制御し、軸索側枝形成に寄与しているかどうかを明らかにする。また、嗅球の背側部は本能的嗅覚行動に関わり、腹側部は弁別学習による嗅覚行動に関わるという報告がある。LOTUSは嗅球の腹側部に多く発現していることから、LOTUSが嗅覚弁別学習行動に関与する可能性が推測されるため、lotus-KOマウスの詳細な行動実験を行う。更に、初代培養海馬神経細胞のシナプスにLOTUSが存在していることが分かった。NgR1も海馬シナプスに分布し、シナプス可塑性に関与することが知られているので、LOTUSがシナプス可塑性関与するかを調査する予定である。
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