脊椎動物の体に存在する3つの体軸の中でも、前後軸の決定は最初になされる軸形成であり、それに従って、形態形成が進行する。これまでの解析から、マウスでは、着床直後の胎齢5.5日胚のもっとも遠位に存在する臓側内胚葉(DVE : distal visceral endoderm)が一方の近位に移動し、前方臓側内胚葉(AVE : anterior visceral endoderm)を形成することで、前後軸が決定されると考えられている。また、このDVE細胞の移動にWntシグナル勾配が関与することが明らかとなっている。そこで本研究では、遠位内胚葉の前方への移動がどのようにWntシグナル勾配に制御されているかという点を切り口に、哺乳類の体軸形成機構を時間・空間的に理解することを目的とする。本年は、ライブイメージングによる前後軸形成期の細胞動態の解析のため、着床直後のマウス胚が、母体外で正常な体軸形成を再現できる培養条件の検討を行った。その結果、培養液などの改良により、母体外で前後軸形成が再現可能な新規の培養法を確立した。同時に、コンフォーカル顕微鏡を用いたライブイメージングについて、培養条件やレーザー強度の設定などの検討も行い、DVE細胞が遠位から前方へと移動する動態を観察できる条件を設定した。また、Wntシグナル勾配がいかにDVE細胞の移動を制御するかを明らかにするため、Wnt関連因子の遺伝子改変マウス胚を用いて、関与する候補因子の探索を行った。その結果、細胞外基質の局在およびそのリモデリングにWntシグナルが大きく関与しており、それらがDVE細胞の移動に関与していることが示唆された。
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