本研究は、"幹細胞の老化(Stem Cell Aging)"を誘導する細胞老化誘導因子p16^<INK4a>遺伝子の生体内における発現制御機構を明らかにし、加齢に伴う組織幹細胞の老化の分子機構を明らかにすることを目的とする。受入研究室にて作成された生体内で誘導される細胞老化をリアルタイムに可視化できるp16^<INK4a>遺伝子発現イメージングマウスを用いて、p16^<INK4a>遺伝子の発現が高い精巣に注目して解析を行った。精巣では精子幹細胞を含むと考えられているSpermatogoniaと呼ばれる生殖細胞群が存在しており、加齢に伴いその細胞数が減少することが報告されている。その結果精巣における精子形成能が低下し、精子数が減少すると考えられているが、詳細な分子機構は明らかにされていない。まず、精巣のHE染色を行った所、老齢マウスの精巣において精細胞が明らかに減少し、精巣上体尾部における成熟精子の減少も観察された。また、SpermatogoniaのマーカーPLZFの免疫染色により、加齢に伴ってPLZF陽性細胞数が減少することが示された。そこでp16^<INK4a>遺伝子の発現細胞を特定するため、連続切片を用いてp16^<INK4a>遺伝子のin situ hybridizationとPLZFの免疫染色を行った所、p16^<INK4a>遺伝子は幹細胞性の高いPLZF陽性細胞ではなく、精細胞の前駆細胞と思われる細胞で加齢に伴い発現が上昇する可能性が示唆された。さらに興味深いことに、p16^<INK4a>遺伝子欠損の老齢マウスの精巣では、同じ週令のWTの老齢マウスの精巣に比べ精細胞が多く存在していることが明らかになり、精巣においてp16^<INK4a>遺伝子は前駆細胞の細胞増殖を抑制することで成熟精細胞の減少を誘導している可能性が考えられる。
|