研究概要 |
本研究は、"幹細胞の老化"やがん抑制機構のひとつ"細胞老化"の誘導因子p16遺伝子の生体内における発現制御機構を明らかにし、加齢に伴う組織幹細胞の老化や、様々な発がんストレスに対するがん幹細胞の発生などの分子機構を明らかにすることを目的とする。 近年、肥満は様々ながんを誘導する強力なリスクファクターとされている。しかし、高脂肪食を30週間与えて肥満を誘導したマウスにはがんは形成されず、高脂肪食だけでは発がんを誘導しないことが示された。一方、我々はたばこの煙やアルコールなど様々な発がん物質にさらされている。そこで、出生後4~5日目のマウスにがん遺伝子HRasを活性化させる化学発癌物質DMBAを塗布し、普通食もしくは高脂肪食を30週間与えたところ、普通食投与群では多くのマウスに腫瘍が形成されなかったのに対し、高脂肪食投与群では全てのマウスに大きな肝腫瘍が形成された。この肝腫瘍形成における細胞老化の誘導について調べるため、生体内での細胞老化をリアルタイムに可視化できるイメージングマウスを用いて同様の実験を行った所、細胞老化の誘導因子p16,p21遺伝子の発現が肝腫瘍部で上昇し、細胞老化が誘導されていることが示唆された。p16,p21遺伝子は腫瘍部の悪性化した肝実質細胞ではなく、間質系のStellate細胞に発現していた。腫瘍部ではStellate細胞が多く含まれており、活性化Stellate細胞のマーカーSmooth Muscle Actinを高発現していた。さらに、Stellate細胞において様々な細胞老化マーカーも観察された。細胞老化を起こした細胞からはSASP(Senescence Associated Secretary Phenotype)と呼ばれる現象により炎症性サイトカインやプロテアーゼが放出される。これらのSASP因子は周囲の細胞に細胞老化を誘導する一方で、悪性化した細胞に対してはがん化を促進する。実際に肝腫瘍部のStellate細胞においてSASP因子IL-6,Gro-α(IL-8のマウスホモログ)の発現が観察された。以上のことから、細胞老化を起こしたStellate細胞からのSASP因子が腫瘍形成を促進している可能性が示唆された。
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