研究概要 |
嫌気性排水処理プロセスから発生する溶存メタンは,バイオガス中のメタン分圧に依存して処理水中に溶存しており,回収等の処理を施される事無く大気へ放散している.本研究では,嫌気性処理リアクターから発生する溶存メタンを大気放散防止する為に溶存メタン回収や分解の技術を確立し,さらに回収したメタンを利用するといった持続可能循環型排水処理技術の開発と処理メカニズムの解明を行う事を目的とした.昨年度までの研究成果では,溶存メタンを回収し酸化分解するプロセスを考案し,下水処理場にて実証するに至った.本年度は,回収した溶存メタンを利用拡大する為に,メタンを電子供与体脱窒,亜酸化窒素を電子受容体としたメタン脱窒をラボスケールにて実施した.実験にはスポンジを微生物保持担体としたDHSリアクターを用いて連続実験を行った.メタンと亜酸化窒素は同一リアクター内で微生物分解できることがわかった.そのメタンと亜酸化窒素の分解速度は,それぞれ約10mmol・m^<-3>・day^<-1>であった.負荷を上昇させると,メタンと亜酸化窒素の分解速度は共に上昇する傾向を示した.微生物解析を行ったところ,メタンと亜酸化窒素を同時に分解するような微生物群はリアクター内に集積されておらず,同時反応を担う微生物群の特定には至らなかった.リアクター内には,MethylococcaseaeおよびMethylosystaceaeに属するメタン酸化細菌群やComamonadaceaeおよびRhodocyclaceaeに属する脱窒細菌群がそれぞれ10-20%検出されており,このような微生物群がメタンと亜酸化窒素の分解に関与していると推測された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嫌気性処理水中に含まれる溶存メタンを処理し利用する持続可能循環型排水処理技術を開発する為に,溶存メタンの大気放散防止が下水処理プロセスにて実証できた.また,その性能の理由を分子生物的手法による微生物叢解析から説明することができた.メタン利用拡大するためのメタン脱窒がラボスケールにて実証できたなど,当初の計画を遂行した.
|
今後の研究の推進方策 |
メタン脱窒プロセスにおいて,メタンと亜酸化窒素は微生物学的に分解されている事が明らかとなったが,その反応を担う微生物群の特定には至っていないため,来年度もメタン脱窒の反応を担っている微生物群を特定し,その処理メカニズムを明らかにする.また,当初の予定通り,嫌気性処理装置から発生する溶存メタンの回収・分解・利用した持続可能循環型排水処理技術の構築のために,下水処理場において,メタン脱窒プロセスの適用を試みる.
|