本研究課題は、3次元空間内において素早く正確な身体運動制御を実現する上で、両眼眼球運動の貢献しているメカニズムを解明することであった。そこで、研究初年度(平成22年度)は、両眼眼球運動における左右眼の特性の違いについて検討するために、「両眼眼球運動特性と利き目の関連性」をテーマとし、奥行き方向への両眼眼球運動を行う際に、利き目は非利き目に比べてどのような動的特性が優位であるか明らかにすることを目的とした実験を行った。 一般成人30名(右利き目15名、左利き目15名)を被験者とし、被験者は眼球位置の前方20cmと150cmの位置に交互に呈示されたターゲットLEDを注視することにより、奥行き方向の注視移動(バーゼンス)を行った。被験者の両眼の眼球運動は眼電図を用いて個別に測定し、全てのLEDを眼球位置と同じ高さに設置することで、バーゼンス眼球運動成分のみを独立して抽出し分析を行った。 その結果、奥から手前への注視移動(輻輳鞍眼球運動)においては、運動開始時に左右の眼球が対称的な挙動を示したが、手前から奥への注視移動(開散眼球運動)においては、運動開始時において左右の眼球が非対称な運動特性を示した。さらに、開散眼球運動においては、運動開始時に非利き目が本来動く方向と逆方向(つまり利き目と同じ方向)に動く共同性の眼球運動成分が観察された。これらの結果から、利き目の特性は奥行き方向への注視移動を開始する際の眼球運動の方向において確認される可能性が示唆された。今後は、これらの非対称な眼球運動特性が中長期的なトレーニングにより変化するのかについて検討すると共に、3次元空間内での素早く正確な肢運動における両眼眼球運動の貢献について解明していく予定である。
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