本研究課題は、3次元空間内において素早く正確な身体運動制御を実現する上で、両眼眼球運動の貢献しているメカニズムを解明することであった。研究最終年度となる平成24年度は、前年度に引き続きカナダ・ヨーク大学に滞在し、視覚情報による到達運動に加えて、固有感覚情報(自分の手の位置情報)を用いた到達運動を対象にして「上肢を用いた精確な到達運動制御を実現するために、ヒトは大脳(特に後頭頂皮質)において様々な感覚情報をどのように処理しているのか」について調べるため、視覚一運動の神経科学的観点からの実験を行った。 一般成人9名を被験者とし、被験者は頭部を固定した状態で、暗室内にて提示されるLEDに対して注視を行った。被験者は注視方向を維持した状態で与えられる視覚刺激ターゲット(LED)または固有感覚ターゲット(被験者の左手示指)の位置情報を記憶した後、右手示指を用いて到達運動をできるだけ精確に行うように教示した。一部の試行においては、Memory-period中に、後頭頂皮質への経頭蓋磁気刺激(TMS)が与えられた。 その結果、視覚ターゲットへの到達運動においては、後頭頂皮質へのTMSにより到達位置のエラーに影響を及ぼす効果が観察された。一方、固有感覚ターゲットに対してはTMSによる到達位置への影響はみられなかった。このことから、異なる感覚様式で与えられるターゲットの位置情報に対して、処理される後頭頂皮質の部位が異なる可能性が考えられた。 以上のように、3年間の研究期間を通して、両眼を用いた注視および眼球運動の特性を明らかにするとともに、両眼での注視が視覚情報および固有感覚情報を用いた精確な上肢運動の制御に与える影響に関するメカニズムの一部を明らかにした。
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