磁場誘起超伝導でよく知られる有機伝導体λ-(BETS)_2FeCl_4はゼロ磁場低温では反強磁性絶縁体状態を示す。そこではこの物質に含まれるFeの3dスピンが反強磁性秩序の主たる役割を担っていると考えられてきたが、近年行った比熱測定から、Feは極低温まで常磁性状態のままであり高磁場で超伝導を担うπ電子系が金属絶縁体相転移を起こすと同時に反強磁性秩序を形成することが明らかとなってきた。担当者はFeの濃度やπ-d相互作用を制御した系でその磁性と伝導性の関連を詳細に調べ、この相転移の起源が有機伝導体に特有の低次元性やFeの強い磁気異方性を反映したまったく新しい相転移である可能性を示唆した。 ■相転移におけるFeスピンの役割 λ-BETS_2FeCl_4塩の基底状態が反強磁性絶縁体であるのに対し、非磁性のλ-BETS_2GaCl_4塩では超伝導状態である。そこでFeとGaを任意の比で置き換えたGa混晶系で観測される反強磁性相のスピン状態を系統的に調べた。その結果、Feスピンは反強磁性相でやはり大きな自由度を維持しながらもπ電子系の反強磁性秩序状態の安定に大きな寄与をもたらすことが明らかとなった。ここでπ電子系が作る内部磁場はFeの置換によって増大することが定量的に示され、その内部磁場で規格化した温度で比熱をプロットすると観測したすべての塩で比熱がスケールできる。 ■相転移におけるπ-d相互作用の役割 Feスピンの量を変えずにπ-d相互作用を制御したλ-BETS_2FeBr_yCl_<4-y>系(y=0.7)におけるスピンの状態も調べている。Br置換に伴い絶縁体転移温度は上昇するものの、転移後のFeスピンのふるまいはGa混晶系と同様、大きな自由度をもった常磁性のままである。一方、この系の磁化率(異方性)からはBr濃度(y)によって磁化容易軸が大きく異なる様子が観測されている。相互作用の強さを変えることでなぜπ電子系の容易軸が変わるのか?相転移と磁気異方性の関連に新たな情報を与える系として今後も比熱と磁化率の系統的な測定を行う。
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