研究概要 |
腫瘍細胞は周囲の微小環境に働きかけ内皮細胞を取り込んで腫瘍血管を新生し、栄養や酸素を供給して増殖することが知られている。さらにはその血管を通して遠隔血行転移することで悪性化し、臨床的に予後不良な状態を引き起こす。このことから、腫瘍血管新生を阻害し、腫瘍の増殖および悪性化を抑制する分子標的治療の開発が研究の目的である。これまでに我々は、BMP4(Bone Morphogenetic Protein4;骨形成タンパク質4)という個体の発生初期に重要な働きをする分子が、腫瘍血管内皮細胞を細胞死に導くことを報告してきた。今年度は、in vivoの腫瘍増殖実験においてBMP4が腫瘍血管新生を抑制することによって腫瘍の増殖を著明に抑制することを明らかにした。抑制効果が認められた腫瘍はマウスの悪性黒色腫、肺癌、およびヒトの子宮頸癌、高転移性肺癌である。In vitroで腫瘍細胞にBMP4を作用させたところ、神経系の腫瘍細胞(神経芽細胞腫、神経膠芽腫)では、腫瘍細胞のコロニー形成能を著明に低下させたが、他の上皮系腫瘍、および間葉系腫瘍細胞では、BMP4がSmas1,5,8の強いリン酸化反応を誘導するにも関わらず、細胞死を認めることはなく、コロニー形成能の低下も顕著ではなかった。しかし、in vitroでBMP4によるコロニー形成能に差が認められなかった上皮系・間葉系腫瘍細胞も、マウスに移植し、BMP4の腹腔内投与を行うと腫瘍抑制効果が有意に認められた。このことは、BMP4が腫瘍細胞を通して腫瘍の微小環境に作用し腫瘍の増殖を抑制する効果をもたらすことを示している。他の健常な血管内皮細胞を傷害することなく、腫瘍血管にのみ作用することも臨床応用を目指す点で重要な所見である。
|