研究概要 |
本研究の目的は,日本周辺の照葉樹林の中でも異なる分布変遷を経てきたと考えられるシイ林とカシ林の優占樹種およびそれに種特異的に寄生する複数の植食性昆虫に注目し,植物と昆虫両者を含めた系としてのシイ林およびカシ林の分布変遷の比較・解明を目標とする。 平成22年度に行った研究および得られた成果は以下である。 1.シイに付く植食性昆虫類における種内のmtDNA多型の解析 シイの新葉に潜葉するヒラセノミゾウムシについて,これまでシイとその種子食昆虫シイシギゾウムシを解析したのと同じ日本の20地点でそれぞれ約16個体を採集し,mtDNA(CO1,CO2,ND5)の約2300塩基の配列を解析した。現在,集団間のハプロタイプ頻度の比較から遺伝距離を計算しデンドログラムを作成中である。植物とそれに付く複数の昆虫の種内系図が一致すればシイ林に生活する種群が共通した分布変遷を経てきたことが示唆される。 2.植物シイのEST-SST多型データの解析 植物シイについては,ESTに由来するマイクロサテライトマーカーを開発し,その多型の地理的分布パターンを解析済みである。このデータを使用してさらに,集団サイズ変動のモデルを複数構築・比較した。氷期のレフュジアが花粉化石証拠の多い九州南部のみにあった場合,本土西部と東部に2つあった場合という2タイプのモデルを構築した結果,「レフュジアが本土西部と東部に2つあった」場合の方がモデルに適合することが示された。 3.カシに付く植食性昆虫類における種内のmtDNA多型の解析 ツヤコガ,モグリチビガは潜葉性昆虫であり,新葉の葉柄へ産卵すると同時に葉を落葉させる。4~6月に地面に落ちている新葉に潜葉している昆虫を日本の数地点で採集した。このサンプルをもとに,現在mtDNAの塩基配列の増幅チェックおよび離れた地点で採集したサンプル間での変異の探索中である。
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