研究課題
本研究では、開殻系分子を用いた有機光エレクトロニクスの開拓を行うため、環状チアジルバイラジカルの光物性を調べ、その機構解明および特性の向上を目指すことを目的としている。以前より巨大過渡光電流が知られていたBDTDAと呼ばれる分子およびその誘導体についての研究から、巨大過渡光電流の発現には分極に助けられる界面電荷分離が必要という結論に至り、膜厚依存光電子分光測定を行うことにより、界面付近における電子状態の解明を行った。またBDTDA薄膜のバンド分散を調べるために、広島大学HiSOR BL-7にてGeS(001)基板上のBDTDA薄膜の低速電子回折法(LEED)および紫外光電子分光(UPS)を測定し、界面付近の電子状態を詳細に調べた。LEED像より、GeS(001)上のBDTDAは三次元的に配向していることがわかった。また入射光エネルギー依存UPSでは積層方向の、角度分解UPSでは面内方向のバンド分散があることが確認された。特に積層方向の分散幅は約0.3eVであり、有機物の中でも特に大きな分散を持っていることが明らかとなった。これは環状チアジル化合物特有の三次元的な強い分子間相互作用によるものであると考えられる。以上よりBDTDA薄膜においてバンド伝導の寄与の可能性が示唆された。一方、我々が提唱したInteractive Radical Dimerの汎用性を調べるために、物質探索としてさまざまな環状チアジルラジカルの合成を行った。π共役系で拡張したBDTDA類縁体は段階的にスピンパイエルス転移を起こすことを明らかにしており、これは強い分子間力に持って密に詰まった結晶構造をもつチアジルラジカルに特徴的な性質である。スピントロニクスへの展開も視野に入れたデバイスへの応用を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記載した(1)環状チアジルラジカル薄膜の光伝導の機構の解明・理解および(2)Interactive Radical Dimerモデルに基づく物質開拓に加えて、次年度に行う予定であった(3)光電子分光法による界面での電子状態の解明を行うことができたため。
今後は2光子光電子分光による巨大過渡光電流発生の機構解明を目的とした過渡状態における電子の挙動に関する知見を得る。今までに得られた知見をもとに高効率かつ高速の光エレクトロニクスを目指した物質開拓および性能評価を行う予定である。
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