研究課題/領域番号 |
10J40164
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
水津 理恵 (塩沢 理恵) 千葉大学, 融合科学研究科, 特別研究員(RPD)
|
キーワード | 有機ラジカル / 有機半導体 / 有機エレクトロニクス / 光電子分光 |
研究概要 |
本研究では、開殻系分子を用いた有機光エレクトロニクスの開拓を行うため、環状チアジルバイラジカルの光物性を調べ、その機構解明および特性の向上を目指すことを目的としている。以前より巨大過渡光電流が知られていたBDTDAと呼ばれる分子およびその誘導体についての研究から、巨大過渡光電流の発現には分極に助けられる界面電荷分離が必要という結論に至り、膜厚依存光電子分光測定を行うことにより、界面付近における電子状態の解明を行った。昨年度、GeS(001)上のBDTDAの入射光エネルギー依存UPSおよび角度分解UPSを測定することにより、非常に大きなバンド分散(~0.3eV)があることが確認している。そこで今回は実際にデバイスで用いられている基板上のBDTDA薄膜のバンド分散を調べるために、高エネルギー加速器研究機構Photon Factory BL-13AにてITOおよびSiO_2基板上のBDTDA薄膜の紫外光電子分光(UPS)および吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を測定し、BDTDA薄膜の電子状態を詳細に調べた。 入射光エネルギー依存UPSではout-of-plane方向のバンド分散がわかる。ITOおよびSiO_2基板いずれにおいてもGeS(001)で観測されたような大きな分散は見られず、分散幅は~50meV程度であった。NEXAFS測定により分子の配向性を調べたところ、ITOおよびSiO_2基板いずれにおいても、基板に対して分子面が30。程度傾いていることがわかった。そのため積層方向の重なりが小さくなり、バンド分散が小さくなったと考えられる。このことから実際のデバイスにおいてはホッピング伝導が支配的であると言える。この結果はBDTDA薄膜の定常電流が過渡電流に対して非常に小さいことと矛盾しない。以上のことから、BDTDA薄膜の大部分は伝導に寄与せず、大きな分極を起こす役割をしていると推測される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した(1)環状チアジルラジカル薄膜の光伝導の機構の解明・理解および(2)Interactive Radical Dimerモデルに基づく物質開拓(3)光電子分光法による界面での電子状態の解明に加えて、特異な構造を持つ有機ラジカル超薄膜の新しい系を発見したため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は2光子光電子分光による巨大過渡光電流発生の機構解明を目的とした過渡状態における電子の挙動に関する知見を得る。今までに得られた知見をもとに高効率かつ高速の光エレクトロニクスを目指した物質開拓および性能評価を行う予定である。 また新しく発見した有機ラジカルの超薄膜の物性研究を進めていく予定である。
|