前年度までの研究によって、イネの根から吸収されたCdは、30分以内に茎内において篩管へと移行しうることが示された。今年度は、Cdの篩管への移行を担う組織を特定することを目的に、ミクロオートラジオグラフィーを試みた。昨年度に試行した予備実験では、Cd-109を含む植物の凍結切片をスライドグラスにマウントし、それを原子核乳剤膜で覆って冷暗所で露光させるという方法であった。しかし、この方法によると、表面に凹凸のある植物組織では、それを覆う乳剤膜にも凹凸ができることになる。つまり、ミクロオートラジオグラフィーの利点である「焦点面を変化させて、同一切片での銀粒子と植物組織構造を顕微鏡で観察する」ことが非常に難しくなることが判明した。そこで、原子核乳剤を塗布したスライドグラスを準備し、そこに植物切片をマウントするという方法を試行した。その結果、Cd-109を数日間にわたって添加した茎内においては、Cd-109の局在が細胞単位で判別できた。この解像度はイメージングプレート(IP)の中で最も感度の高いIP-TRをはるかに上回るものであり、Cdがsink器官へ輸送される過程で通過する細胞を同定することを可能にする手法であることを示していた。Cdのイネ茎内分布に関しては、近年では放射光を用いて解析した報告がある。しかし、本研究で解析の対象としたのは、特定の期間に吸収されたCdの分布であり、Cdの輸送過程の解析に適していると言える。このような、Cdの実際の輸送経路の解析は、近年大きく進展した、Cdの輸送に関わる分子の具体的な作用の同定にもつながる、重要な知見を提供できるものと思われる。
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