研究概要 |
本研究課題は、単細胞生物が多細胞化したのに伴って獲得された形態形成機構が,どのような分子進化過程を経て生まれたのかを解明することを目的とする。具体的には、単細胞緑藻のモデル生物クラミドモナスとこれに近縁な多細胞緑藻群である群体性ボルボックス目を用い、この群に特徴的な形態形成機構「インバージョン」が進化した過程を分子レベルで明らかにすることを目指す。本年度は、新たにエレクトロポレーションによる遺伝子導入システム(ECM630、BTX社)を購入して条件検討を行い、クラミドモナスに対する遺伝子導入系を立ち上げた。この系を利用して、クラミドモナス細胞壁欠損変異株CC-3395株に対して、HAタグを付加したボルボックスinvD遺伝子全長を含むゲノム断片を導入した。得られた合計約260株の形質転換株を用い、ゲノムPCRによってinvD遺伝子が導入された株を選抜した。その結果、171株のinvD遺伝子導入系統が得られた。これらの株を用いて,クラミドモナスにおいてインバージョン期に相当すると予測される細胞分裂後の細胞の表現型観察を行ったところ、一時的ではあるものの細胞突起が誘導された株3395-invD-2株を得ることができた。この3395-invD-2株を含む10株の形質転換株を用いて、抗InvD抗体および抗HA抗体を用いたウエスタンブロット解析を行ったが、InvDタンパク質特異的シグナルを得ることはできなかった。そこで、それらの株からダイナビーズ法(インビトロジェン社)を用いてmRNAを単離し、RT-PCR法によるinvD遺伝子発現解析を行った。その結果、3395-invD-2株を含む3株でinvD転写産物特異的シグナルを確認することができた。したがって、3395-invD-2株において見られた細胞突起は、外来invD遺伝子の発現に起因することが示唆された。
|