我々は以前に、脳虚血/再灌流障害治療に対しリポソーム等、ナノキャリアによるdrug delivery system (DDS)の適応可能性を示した。本年度は2つのリポソーム製剤の開発に着手し、パッシブターゲッティングによる当該障害の治療を試みた。薬物A(特許申請のため名称省略)は脳保護薬として期待されているが、多量・頻回投与の必要性が副作用の観点から問題とされる。薬物Aのリポソーム化にあたり、11種の脂質組成から薬物の封入効率、血清下での安定性を考慮し、最適なリポソーム組成を決定した。また、薬物A封入リポソームは、病態モデルラットにおいて、単独投与に比べ低容量での障害抑制効果を示し、さらには動態制御による副作用低減も示した。これは社会のニーズに適合した研究であると考える。アシアロエリスロポエチン(AEPO)は抗アポトーシス作用により、高い神経細胞保護効果を示すことが報告されている。しかし、AEPOの短い血中半減期は非造血作用を示さないことに寄与する一方、障害部位への到達量が低いことが問題点とされる。そこで、リポソームDDS技術の応用による高効率な薬剤デリバリーによって治療効果の増強を図った。AEPOはその薬理機序を考慮し、リンカー分子を用いリポソーム膜上に保持するよう設計した。組成検討よりAEPO修飾効率を約40%で調製することに成功した。AEPO修飾リポソーム(AEPO-lip)はin vitroにおいて単独のAEPOと同等の細胞保護効果を示した。体内動態の検討から、AEPOのリポソーム化による血中滞留性の上昇、虚血部位への集積量増加が認められた。また、組織レベルで、神経細胞への集積上昇、アポトーシス抑制効果の増強が観察された。さらには、病態モデルラットにおいてAEPO-lipの顕著な脳虚血な再灌流障害抑制効果が認められた。本年度の研究成果から、ナノキャリアによるDDSの脳虚血再灌流障害に対する有用性を示せたと総括される。この成果は、新規脳保護製剤開発においてのブレークスルーになることが期待できる。
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