脳の発生過程で興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の前駆細胞は異なる移動様式を示すが、これらの細胞移動が同様のまたは異なる細胞内機構により駆動されるかは明らかでない。本研究ではRho標的アクチン重合因子mDiaの神経前駆細胞の移動における役割をmDia1/3二重欠損マウスで解析した。mDia1/3二重欠損マウスでは、興奮性神経細胞のradial migrationとそれに伴う大脳皮質層形成に異常は無かった。一方、抑制性神経細胞の基底核原基から大脳皮質へのtangential migrationは有意に減少し、成体においても大脳皮質や海馬における抑制性神経細胞の減少が認められた。また、成体の側脳室下帯神経芽細胞の嗅球へのtangential migrationも顕著に減少し、嗅球顆粒細胞の減少と嗅球低形成が観察された。次いで、側脳室下帯を組織培養し神経前駆細胞の移動様式を細胞体と中心体の動きを焦点にin vitroで観察した。これによりmDia1/3は中心体の先導突起方向への移動と、移動した中心体への細胞核・細胞体の移動の両方に関与していることが分かった。このときアクチン動態を可視化したところ、中心体に付随したアクチン線維の先導突起方向への移動と細胞体移動時の細胞体後部での一過的なアクチン線維の集積がmDia依存的に起こることが明らかとなった。最後に神経前駆細胞の移動でRhoの下流でミオシン活性化を担うROCKがはたらくかを、ROCK特異的阻害剤Y-27632を用いて検討した。ROCKの阻害は中心体の細胞核からの移動に影響を与えなかったが、細胞核の移動を抑制した。以上から、抑制性神経細胞のtangential migrationにおいて、Rho-mDia経路によるアクチン動態制御が不可欠であること、このメカニズムは興奮性神経細胞のradial migrationには重要でないことが示された。
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